イギリス留学の思い出

20年以上前に経験したイギリス留学の思い出を取りとめもなく書く

アラプールのライブ演奏

スコットランド周遊旅行では大まかな計画を決めていたものの、特にどの街に行くという希望はなかった。とにかく道路を北上し、面白そうなところがあればそこに寄る、というスタンスだ。

決めるのは車を運転するC君が主で、僕や同乗者のSさんにはほとんど決定権はなかった。彼が運転するんだし別に反対する理由もない。

 

いろいろな場所に寄ったけど、どこのどの街だったのかほとんど覚えていない。北上するにしたがって街は寂しくなっていき、小さくなっていった。街というより村だ。それらの場所にはだいたい人の気配がなく、店はほとんど閉まっていた。

僕にはこんなところに住む人たちの事が不思議でならなかった。なぜこんな不便なところでひっそり暮らしているんだろう?確かに風景はきれいだけど、こんな退屈なところにいたら孤独でおかしくなってしまわないか?

当時の僕は若かった。とにかく世の中を見て回ろうと必死だった。辺境に引っ込んでいる人たちが理解できなかった。

 

そんなこんなで僕らはアラプールという街に巡りついた。ここでは久しぶりに人の活気を見た。そんなに人好きではない僕も、久しぶりににぎわう街を見ると嬉しくなった。

 

アラプールは港町だ。そんなに大きくないけど、アザラシやパフィンという鳥を見ることができるボートツアーがあり、地元観光客に人気だった。

港沿いには小ぢんまりとした家が並ぶ。ミニチュアみたいな街だ。そのうちの一軒がユースホステルだったので、僕たちはそこに泊まった。

スイス人のSさんは気持ちいい海風が吹き込む堤防からボーっと海を見ている。僕とC君はここで一泊した後どこに行こうか話し合っていた。

 

夜になる。港沿いの道路を100メートルくらい行った突き当りにパブがあった。そこで地元の流しの歌手がライブ演奏をするというので3人で行った。

彼はGraeme Pearsonという歌手*1で、スコットランドフォークソングを主に歌っていた。とても陽気で、独特のスコットランドなまりの英語をしゃべり、民族音楽が好きだった僕はとても楽しくて、テンションが上がった挙句、普段全く飲まないビールを頼んだりした気がする。楽しんでいたのはSさんも同様だったけど、C君は興味がなかったのか、ひととおり音楽を聞いたらさっさとホステルに帰ってしまった。

 

PearsonさんはライブしながらCDを売っていた。僕とSさんはCDを二種類買い、僕がそのうちの1枚を選び、もう1枚をSさんがもらった。

彼の音楽は忘れられない。この時に買ったCDはイギリス生活で寂しくなった時にいつも聴いていた。荒涼とした土地を巡っているときに聞いた彼の歌声にはなぜか人の温かみを感じたのだ。

イギリスの事を思い返すたび、彼の歌声が聞こえてくる。

 

この記事を書くために彼の事をネットで探したら彼はまだ活動しているらしく嬉しくなった。彼は全然有名じゃないけど、僕にとってはナンバーワンの歌手だった。

Youtubeに歌が上がっていたのでそのうちの一曲を紹介。

youtu.be

 

僕とSさんはライブに非常に満足しながらホステルに戻った。真っ暗な部屋に入ると、C君は熟睡していた。

*1:今まで名前なんて覚えてなかったけど、この記事を書くために必死で名前を探した