語学学校で知り合った友人、スイス人のC君とSさん。彼らと車で2週間のスコットランド旅行をすることになり、その初日。
僕らはエディンバラは帰りに寄ることにして、まずはグラスゴー近くで一泊、それから北へ向かうことにした。このころ訪れた場所はまだ人の活気で溢れていた。
グラスゴーはスコットランドの主要都市だ。エディンバラからそれほど遠くない。
特に観光名所という感じでもない地方都市で、治安は良くないとのことだった。僕らはその街を素通りする。「そういやこの街の大学の応募も考えてたな」と少し感慨深い気分になった。
初日ということもあり僕は始まったばかりの旅にワクワクしていた。C君の運転は荒かったけど隣で乗っている分には楽だった。Sさんは後部座席を占有しくつろいでいた。
旅行を通してC君とSさんがドイツ語で何かおしゃべりをして、僕はまったく理解できないということがしばしばあった。僕はそういうときストレスを感じたけど、それは今思えば些末な事だ。
この後旅行はいろんな意味でどんどん苛酷になっていく。
僕らは金をほとんど使わないようにしていた。というかスイス人の若者はそういう気性なんだろう。彼らはいつもなるべく安く、なるべく粗末な場所に泊まろうとした。僕もまだ若かったし、そういう旅は嫌いじゃなかった(実際日本にいたときもバックパック旅行をしていた)ので、彼らの決定に大まかには従った。
というわけで僕らの宿泊場所はだいたいユースホステルだった。
初日に泊まった森の中にあるユースホステルは、ゴージャスだった。残念ながら詳しい場所も名前も思い出せない。
もと貴族の邸宅だかで、広大な庭を持つ巨大な屋敷だった。イギリスはそういうユースホステルが結構ある。
僕はイギリスのユースホステルの豪華さに驚き、今後の宿泊の快適さに期待した。けれど、結果的にはこのユースホステルが一番快適だった。
庭を探検したり、ベンチでくつろいだり、そこでの夜は実にリラックスした時間だった。
部屋に戻る途中、広い屋敷によくある大階段を上ってくる若い日本人女性2人を見かけた。彼女らは大きなリュックサックを背負っていた。街から相当な距離があるのに、歩いてきたんだろうか?話しかけようとしたけど、その時はやめた。
その後、共同キッチンで何かを食べたような気がする。はっきりは覚えてない。
連れのC君にさっきの日本人女性の話をすると「大変そうなら街中まで乗せてってあげてもいいんじゃないか」と提案してくれた。
屋敷内を探検し、うろつく。偶然にも受付の前でまたさっきの日本人女性2人に出会う。彼女らはタクシーを頼もうとしていたけど英語がつたなかった。僕は出しゃばって彼女らのそばで英語のフレーズをつぶやいた。
カッコつけようとして余計なことをしたのだ。僕もまだ若かった。
受付のイギリス人の若い兄ちゃんは僕が英語を理解する日本人だと知ると「日本で商売したいんだ」とか英語でベラベラしゃべり掛ける。半分以上理解できないけど、女性らの手前もあって僕は理解している振りをした。
イギリスの兄ちゃんはそれを見抜き「お前理解できてるか?」とニヤついた。
僕は彼女らに「僕らの車に乗っていったら」と提案した。女性の一人は前向きな感じだったけどもう一人は強固に拒否した。
まあ、怪しいわな。拒否した女性は賢明だと思う。
翌日、朝ご飯を共同キッチンで食べる。全身黒ずくめのドレスを着た若い白人女性がいた。僕は「あの人全身黒いよ、異様だね」と連れに言うと、C君は「それが何?」とそっけない。
僕は指摘した自分を恥じた。
朝食を食べ、僕らはユースホステルを後にした。車内からボーっと風景を眺めていると、さっきの黒ずくめの女性が森沿いの道を一人歩いていた。
やっぱり僕には異様だった。