スイス人の友人二人とウェールズの英語学校を去った僕。まずウェールズを抜け、スコットランドへ向かった。
この後2週間程度スコットランドをぐるっと一周したけど、その時の時間は今思い出してもかなり長く感じる。
スイス人の1人は20代前半の穏やかな性格の男性、名はC君で、本職は職人とのことだった。彼は車ではるばるスイスからウェールズまでやってきていた。彼の車に乗せてもらい、おもに高速を使っての旅だった。
旅行を初めてすぐ、アクシデントに見舞われる。
彼の車は左ハンドルで、スイスは右側通行だ。しかしイギリスは日本と同じ左側通行。彼はしばしばそのことを忘れ、右側を走ることがあった。僕はボケーッと乗っていたのであまりそれに気づくことはなかったけど、一緒に乗っていたスイス人の女性、Sさんが「逆サイドを走ってる」と指摘して、慌てて戻る、ということがしばしばあった。
初日、僕らはラウンドアバウトに入ろうとしていた。ラウンドアバウトというのは道路がぐるっと輪になった交差点で、信号がなく、タイミングよくその輪に入って周り、希望の方向の道路から出るシステムだ。日本ではあまり見ないけど、海外、とくにイギリスでは頻繁に見る交差点で、みんなスムーズにラウンドアバウトを出入りしていた。
そこに入る時は、輪を回ってくる車がないか確認する必要がある。中で回っている車の方が優先なのだ。
イギリス式のラウンドアバウトの場合、輪は時計回りに回る。つまり輪の中に入ろうとするときは、右側から車が来ないか確認しなければならない。けれど右側通行の国はこの周りが逆なのだ。スイス人の彼はこのことを忘れていて左から車が来ないかを確認し、ラウンドアバウトに侵入し、そして右側から来た車と衝突した。
僕は一瞬何が起こったのか全く理解できなかった。
C君は車を降りた。そのとき初めて僕は事故ったことを知った。僕は助手席に乗っていて、僕の側で衝突したはずなのに、なぜか当時の僕は衝突したことに気付かなかった。
幸いにも相手がよけてくれて、こっちも大した傷じゃなかったということで、その場で示談ということで終わったようだった。というかC君がイギリス人じゃなかったので相手もめんどくさかったんだろう。
後にSさんが「よくあんな怖い思いして助手席に乗ってられるわね」と言ったけど、僕にはそんなに怖い感覚はなかった。
何とか高速に乗り、パーキングエリアに入り、軽い昼食を取る。贅沢旅行ではない僕らは食堂で食事をとらず、安いパンやチーズを買って外で食べた。
ちなみに旅行中ほとんどずっと自炊だった。
C君はパーキングエリアの野外にある雨で少し濡れていた丸木のイスにじかにパンやチーズを置き、それらをアーミーナイフで切り、そのナイフでバターやジャムを塗り、そしてナイフを布で拭いてポケットにしまった。Sさんはそれを何の躊躇もなく食べた。
日本人からしたら到底考えられない衛生観念だ。今はキャンプブームもあってそういうことに寛容な人も多いかもしれないけど、当時の僕にはショックだった。「食料の下になにも敷かないの?」と。
「こりゃ大変な旅になるぞ」とこの時の僕は思った。