グラスゴーを抜けた僕ら3人は、ひたすら道沿いにスコットランドを北上した。
いろいろな街を訪れ、時には宿泊をしたりもしたけど、一生懸命思い出そうとしても街の名前もどの場所だったのかもほとんど覚えていない。
ただ鮮明に覚えているのは、ひたすら続く荒涼たる平原、そして森と湖だ。
スコットランドは寂しい土地だ。北へ行けば行くほどその印象は強まった。
途中、大きな角の生えた牛たちの群れや、大量の羊を連れて道路のど真ん中を歩く羊飼いを見かけたこともあった。牛たちは人間を怖がることもなく、僕らはその牛を撫でたりできた。
ハイランド牛というスコットランド名物の牛らしい。
スコットランドに道は多くない。大きな道は主に西側と東側、それに中部の3本。
僕らは西側の道を北上し、北端で折り返し、中部の道で帰ってくることにした。
街と街の間には何もない。これはヨーロッパの国々の特徴だけど、スコットランドは特に何もなかった。ひたすら崖、山、湖、森、そしてヒースの生えた荒野が続く。
日本は(おもに本州は)どんなに田舎を走っても何らかの人の気配がある。看板だったり、店だったり、家だったり、廃墟と言っても数十年前には人がいたんだなという形跡がある。
スコットランドには人の気配がない。車で走っていると人類は絶滅して自分たちだけしか生きていないんじゃないかと錯覚することがしばしばあった。そんな時僕は寂しくてたまらなくなった。いろんな旅行をしてきたけど、こんな気持ちになったのは初めてだ。普段の僕はむしろ人のいないところに行きたがるのに。
ほんのたまに、山の中腹、森の中に、やたらでかい屋敷がポツンと建っていることがあった。その屋敷はたいてい城のようにでかい。近くに道も見当たらず、そこまでどうやって行ったらいいのか見当もつかない。そんなところにだれが住んでいるんだろう?
2週間の旅行のうち1週間はそんな場所をひたすら進んでいた気がする。別に詳細なプランを立てていたわけじゃないので急ぐこともない。
僕らの食料はだいたい僕が持ってきた日本食だった。英語学校にいたとき実家からたくさん送ってもらっていたのだ。
荷物を受け取った当時、英語学校の友人たちは「3カ月しかいないのになんでそんなに大量の日本食がいるんだ」と笑ったものだ。彼ら外国人に日本食を紹介したいという気持ちもあったし、何より僕の留学は英語学校で終わりじゃないのだ。実際こうしてスコットランド旅行でとても役に立った。
誰もいないスコットランドのそびえたつ崖のふもと、殺風景なヒースの荒野や美しい川の流れを見ながら寿がきやラーメンやどん兵衛のカップ麵をスイス人とすすったりした。
あそこであんな食事したのは後にも先にも僕らだけだと思う。