スコットランドをめぐる2週間の旅。その終りが近づいていた。僕は旅の終りが近づくにつれてどんどん憂鬱になっていく。
この旅が終わった後に暮らす部屋が決まっていなかった。
エディンバラは美しい街だった。僕はこの街の風景と雰囲気にとても癒された。
僕はエディンバラ大学にも受かっていたけど入学を辞退していた。のちになって「エディンバラ大学にしておけばよかった」と思うことが無数にあった。
一緒に旅をしていたスイス人2人とエディンバラで「ウォーカーズ」というブランドのショートブレッド(カロリーメイトみたいなお菓子)を買った。スコットランドっぽいお土産としていいんじゃないかと考えたからだ。
これを持って僕らはエディンバラを離れ、ウェールズの英語学校があった街を再び訪れた。英語学校時代、僕とスイス人のC君は一緒の家にステイしていたので、そこのホストの老夫婦にお土産を渡したかったのだ。
再び訪れたその街は、なんだか以前と全く違う街に見えた。
僕の知っている仲の良い英語学校の仲間たちは、もういない。
ホームステイしていた老夫婦を訪ね、ウォーカーズのショートブレッドを渡す。実際ウォーカーズはイギリスのどこでも買えるありふれたお菓子だった。今は日本ですら買える。でも老夫婦の奥さんは「気持ちが大事だ」と笑って受け取ってくれた。
その後、英語学校のあった建物を訪れる。中は何もなかった。本当に空っぽだった。
一人、残務処理をしているおじさんがいた。彼はドイツ人らしく、スイス人のC君とSさんは彼と仲良くおしゃべりしていたけど、僕はドイツ語が分からないので一人外でウロウロしていた。
とても寂しい気持ちだった。毎日入り浸ってみんなでおしゃべりした学生寮の建物も、もう売り払われて中に入ることもできない。
自分の居場所がない、というどうしようもない孤独感を感じていた。
同日、僕らはこの街を去った。あれ以来僕はあの街を訪れたことはない。
この街に来る前に、僕らは森の中の小さなホステルに泊まったことがあった。そこに「イギリス全国ホステルガイド」みたいな本が置いてあり、その本の中に「ハーロウ」というロンドン近郊の街のユースホステルが紹介されていた。そこは割と値段も安い方で、僕はロンドンで部屋を見つける間、そこで過ごすことにした。
C君にそれを伝えると、そこまで連れて行ってくれるという。