イギリス留学の思い出

20年以上前に経験したイギリス留学の思い出を取りとめもなく書く

イギリス初日に気分が高揚する

イギリス滞在初日、マンチェスターの初夏は日が長かった。

夜8時になっても一向に日が沈まない。僕は滞在先のユースホステルに帰った。

部屋に戻るとそこには誰もいなかった。8人部屋に僕一人。シャワーが部屋にあったので浴びた。少し部屋にいて誰かが来るか待っていたけど誰も来ない。

僕は広い食堂に行って夕食を取ることにした。

 

ユースホステルは夕食がついていない。夕食は基本的に自分で作って食べるのだ。

僕はイギリスでどう買い物をしていいのかわからなかったので、日本から持ってきたおにぎりを食べることにした。これは見送りに来てくれた知り合いがくれたものだ。おにぎりはぺちゃんこにつぶれていたけど別に味は変わらない。

 

そこに日本人の女性がいた。当時20代半ばだった僕より少し歳上、20代後半か30代前半に見えたけど、ほんとうのところは分からない。どちらが先に話しかけたのかは忘れたけど、僕はその人としゃべることになった。

彼女の名前を聞いたはずなのに、今では全く覚えてない。

その人は旅好きの女性で、イギリスに来たばかりで、これからイギリスじゅうを巡るのだという。ほかの国もあちこち巡っていたようだった。旅巡りを生きがいにしてる人がいることは知ってたけど、そういう人に会ったのはこの時が初めてだった。僕は日本を発って一日しかたってなかったけど、同胞と外国の地で出会えたことがとてもうれしくて饒舌になった。

 

そのうち、もう一人若い日本人男性が僕らのところにやってきた。彼は僕と同い年ぐらいに見えた。女性とは知り合いのようだった、旅先で出会ったんだろうか。

その男性は泊るところを探しているとのことだった。なんでもこのユースホステルでは宿泊を断られたらしい。僕は不思議に思った。僕の部屋には僕以外誰もいないのだ。なぜベッドが空いているのに泊まれないんだろう?

「受付に掛け合おうか?」と提案したら、その男性は「いや、ほかの場所を探す」と言って出ていった。僕は「こんな異国の地ですごいな」と思った。

 

僕は食堂で知り合った女性に、いかにイギリスの印象が素晴らしいかを語り続けた。日本は窮屈だ、イギリスは自由になれる、みたいなことを、イギリスで生活したこともないのにしゃべり続けた。

女性は日本から離れていることが多いようだったので、僕の無邪気すぎる感想に対して同意してくれたし、ときには補足してくれた。ただ彼女はイギリスの物価の高さを嘆いていた。「こんな調子で金を使っていたらすぐに資金が尽きてしまう」と言っていた。

 

さっき部屋を探すために出ていった男性が帰ってきて、部屋が見つかったと言った。治安の悪いスラム街みたいなところに泊まるらしい。僕は大丈夫かと心配になったけどその男性はケロッとしていた。

その男性も海外経験が豊富らしく、女性と東南アジアに旅行した時の話をしていた。二人とも東南アジアで「トリップ体験」をしたことがあるそうで、「あれはよかった」「これは悪酔いした」とか僕には全く未知の経験を話していた。

僕は「海外って怖いな」と思った。

 

女性と意気投合した僕は「地球の暮らし方」という本を彼女からもらう。彼女は「君の方が役に立ちそうな本だから」と快く譲ってくれた。この本は実際イギリスで暮らし始めてからとても役に立った。

「翌日ウェールズに行きたいんだ」と言うと、「長距離バスがある」と教えてくれた。何も知らなかった僕にとって、彼女に出会えたことは本当に幸運だった。

 

翌日、彼女が僕をバスターミナルまで連れて行ってくれた。切符の買い方まで教えてくれて、本当に助かった。

僕は語学学校に電話を入れて「今から向かう」と苦労しながらなんとか伝えた。

ほどなくバスが着て、彼女に見送られながらマンチェスターを後にする。

 

こうして、僕のイギリス初日の印象はとても良いものになった。