英語学校での2か月目。僕は相変わらず楽しい日々を過ごしていた。
僕はそのころまだ20代。新しく入ってきた生徒たちは10代もいたけど、僕と年の近い20代前半の子もたくさんいたので毎日英語学校の寮に入り浸っては楽しくおしゃべりをした。
「8月もこんな感じでたくさん生徒が来るのかな」と思っていた矢先、衝撃のニュースが飛び込んでくる。
僕は賑やかな英語学校が好きだった。新しい生徒が入ってきて、いろいろな人と交流できるのが楽しかった。若い男たちはバカ騒ぎばかりしていたのであまり校外でつるむことはなかったけど、女の子たちはだいたい落ち着いていてアジア人の僕らにも優しく接してくれたので、数人で連れ立ってフィッシュアンドチップスを海岸で食べたり、夜の引き潮の海岸を歩いたりした。
彼らもひと月でいなくなるというので、8月はどんな人たちが来るんだろうと思っていたけど、先生に聞いたら「あまり人は来ない」ということだった。
「どうして?」と僕は聞いた。
「この英語学校は8月いっぱいで閉じるからよ」とその女性教師は教えてくれた。
僕は耳を疑った。この英語学校が閉じるなんて、そんな話はまったく知らなかった。
僕は8月までそこにいることになっていたけど、偶然にも僕はその学校の最後の生徒になってしまったのだ。これは本当に偶然だった。英語学校は僕が来る前から閉じることを決めていたらしい。
閉じる理由はいろいろあったそうだ。
イギリスは物価が高い。学校は生徒が多かったけど、維持はとても大変なようだった。ウェールズのはずれの小さな街、という立地条件も影響していたようだった。イギリスは比較的アクセスがいいとはいっても、ウェールズは辺境過ぎた。
英語学校の先生たちは学校の母体となるキリスト教団体から派遣された人たちだった。英語を教えながら宣教する、という活動をする人たちで、ずっとこの学校で教えている人もいれば、短期間だけこの学校に来て教え、また別の地に移っていく人もいた。
このキリスト教団体がウェールズにあるこの学校を閉じ、もうひとつ、オーストラリア(ニュージーランドだったかもしれない)にある学校にリソースを集約することにしたそうだ。
僕はガッカリした。こんなに楽しい英語学校が閉じてしまうなんて、とてももったいない気がした。
他の生徒は、学校が閉じても別に構わないという感じだった。そりゃそうだろう、一カ月しかいないんだから思い入れも何もない。
この学校が閉じてしまうと聞いて、ここの街も寂しくなるだろうな、とその日は感傷に浸った。