英語学校は6月初めから8月終わりまでいた。この英語学校は小ぢんまりしていて、小さな海岸沿いの街にあり、まさに地方のさびれたリゾートという感じの場所だった。
僕はこの適度に田舎のイギリスの雰囲気がたまらなく好きだった。
英語学校に来て一カ月たつと、友達になった韓国人の集団が一斉にいなくなった。彼らはとても賑やかで陽気だったので、彼らがいなくなってとても寂しくなった。
代わりにやってきたのがドイツ、オーストリア、スイスといった国から来たドイツ語圏の若者たちだ。韓国人たちは若くても20代半ばという感じだったので、10代後半や20代前半の若者たちがくると、また雰囲気がガラッと変わった。
僕の滞在していた家にいたイタリア人の女の子もいなくなり、代わりに韓国人の男性がやってきた。
彼が来る前に、英語学校に残っている韓国人の女の子に「今度来るのは韓国人の男性らしいよ。嬉しい?」と言ったら、「別に期待してない」と言っていた。
やってきた韓国人は中年の少し薄毛の男性だった。まあ、韓国人の女の子がときめくような感じではなかったので、期待しないのは正解だったと思う。
彼は僕と同じ家に滞在し、しばしばパソコンで曲を聴きながら大声で歌っていた。常々思うけど、韓国人の歌声は本当に声が通る。まるでオペラ歌手のように歌うのだ。
でも、その歌声のせいでたまにホストマザーに注意されたりしていた。
さて、生徒の多くはヨーロッパ人になり、英語学校の雰囲気がかなり変わった。
僕ら日本人はマイナーになり、しかも僕らはかなり年上の生徒になった。
ドイツ人の生徒はよく僕ら日本人に「君らの習慣は体に悪い」と注意した。僕らはコーヒーが好きで、休憩時間によく飲んでいたのだ。「カフェインレスがいいよ」というので、その時から僕らはカフェインレスのコーヒーを飲むようになった。
彼らは若く、僕はよく彼らと議論をした。なぜ日本人はクジラを捕るのか、と責められたりしたし、あとハイジのアニメは日本発祥だと言ったら嘘つき呼ばわりされたりもした。
別に愛国心は強くなかった僕だけど、ここまで言われるとムッとなって口論になってしまったこともある。ただ、これは僕の英語力アップにかなり貢献した。
僕が逆立ちしても彼らに勝てなかったことがある。それは顔立ちの美しさだ。
スイスから来た女の子はいつもベレー帽をかぶっていた。それで僕は彼女をボーイッシュな子だと思っていたけど、ある時彼女が完全に女の子の格好をして座っていたことがあり、僕は彼女の彫刻作品のような美しさに息をのんだ。プロポーションも抜群だったけど、何より顔立ちがまるで作り物のようだった。僕は彼女の斜め後ろに座っていたけど、そこから見る彼女の金髪と横顔が本当に美しかった。
それ以来、僕は気後れしてしまい、彼女に気軽に話しかけることはできなくなった。恋愛感情とかではなく、完全に別世界の人間に感じたのだ。まあそれ以前にもともと彼女と私的に話すことはなかったけど。
もちろん、ヨーロッパ人と言ってもそんな美しい人ばかりじゃない。僕は20年以上ヨーロッパにいるけど、そういう気後れはもう感じる事はない。