イギリス留学の思い出

20年以上前に経験したイギリス留学の思い出を取りとめもなく書く

不思議の国のアリスセンター

ウェールズの英語学校にいたときに行った遠足の思い出の3回目。

正直他人が読んでも面白くないと思うけど自分の備忘録という形で書いておく。

 

不思議の国のアリスのヒロイン、アリスリデルは実在した。

アリスはオックスフォード大学クライストチャーチカレッジの学寮長の娘だった。彼女がオックスフォードに住んでいたころ、そこで数学者のルイスキャロルと出会う。彼は当時クライストチャーチカレッジに在籍していた。

ルイスキャロルがアリスのために即興で作った物語、それがのちに不思議の国のアリスになる。

 

アリスの一族、リデル家は高貴な血筋で豊かだったので、別荘なんかを持っていた。その別荘は北ウェールズの端、Llandudnoという小さな町にあった。この町名、ウェールズ語で何と読んだらいいのか分からないけど、日本語では「ランディドノー」と書くらしい。

この町は今でもイギリス人にとって有名リゾート地だ。そこに遠足に行った。

 

この町は海に面していて、美しい桟橋がある。

 

かと思えば高い山もあって、町の坂道はかなり急こう配だ。地元の小さい女の子たちがゼエゼエ言いながら坂道を登っていたのを見てほほえましい気持ちになったのを記憶してる。

 

この町はとても美しかった。古き良きイギリスのリゾート地という感じで、イギリス人たちもノスタルジーを掻き立てられるらしかった。

 

アリスの別荘があるということで、この町もアリス人気に乗っかっていた。

別荘自体は見なかったけど、海に近い通りに「不思議の国のアリスセンター」という小ぢんまりした施設があったので行ってみた。

なんとアリス好きの個人が作った施設らしい。

そこはたとえて言うならディズニーランドのアトラクションのような場所だった。客は僕以外いなかったけど、とても親切そうなスタッフのおばさんが2人ほどいた気がする。

 

人形がたくさん置いてあった。「不思議の国のアリスツアー」的なものがあり、僕は別料金を払ってそれを見ることにした。要するにディズニーのウォークスルーアトラクションのようなものだ。

おばさんからでっかい再生機を受け取り、それを首からぶら下げる。ヘッドフォンが取り付けられていて、僕はそれをつけさせられる。そこから解説の音声が流れてきて、それに従って部屋を渡り歩いていくしくみだ。日本語もあるというので、日本語で聴くことにした。

 

そのアトラクション(といえるほど大げさでもないけど)はいくつかの小さな部屋に分かれていて、一つの部屋は6畳ぐらい、物語の各場面ごとに部屋に分かれていた。

部屋の中には物語の場面を描写したマネキンが置いてある。

 

ヘッドフォンから流れる登場人物の声は非常に素人臭かった。たぶんそこいらにいる日本人留学生に吹き込みを頼んだんだろう。しかもやたら翻訳がおかしい。途中で登場人物の声が変わったりもした。

最初の方こそ日本語に訳されていたけど、そのうちだんだん日本語じゃなくて英語が流れるようになり、日本語だったり英語だったりと実に適当な解説だった。

まあそんなことは別にどうでもよかった。こんな片田舎で日本語訳者を見つけるのは大変だろう。訳が間違っていても、イギリス人のスタッフのおばさんにそれを知るすべはない。むしろ一部であるにしろ日本語に対応しているのが驚きだった。

 

解説に言われるまま、「次の部屋へ」と言われたら次の部屋へ移る。ときには解説が長すぎて「いつ次の部屋に行けるんだ」とやきもきすることもあった。

 

ほどなくアトラクションが終わる。再生機を返し、部屋の外に置いてある無料スペースの人形を見ているとおばさんが寄ってきた。

「日本人が作ったのよこれ」とおばさんが言った。それを聞いて驚いた。

「アリス好きの日本人が来てたくさん作ってくれたの」と嬉しそうに言う。僕はそれを聞いて妙に納得した。確かにそこに置いてあるアリスたちは日本でよく見る繊細なつくりをした職人技をこらした人形に見えたからだ。

アリス発祥の本場に行って、本場の展示物になるほどのアリスの世界を独自に作り上げた日本の若者。すごい人もいるもんだ。

 

その建物を後にして、語学学校の仲間に「アリスセンターに行ったよ」と言ったら、誰も興味を示さなかった。ここまでアリスを好きなのは日本人だけなのかもなあと思う。

 

このアリスセンターは2008年に閉館したそうだ。アリスリデルの別荘も、今は解体されてもう存在しない。