イギリスに留学したいと思い立ってからというものの、その後の3年の準備期間のほとんどを英語学習に費やした。
英語は本当に苦手だった。高校の時は偏差値が50を超えたことがない、というほど大の苦手科目だった。大学に行くとみんな英語学習をやめてしまうので、勉強をつづけた僕はほんの少しだけ周りの連中より英語ができるんじゃないか、と思い上がったこともあったけど、テストの点は正直だった。
どんなにテスト勉強をがんばっても、目標とする点はまだまだ遥かに上だった。
僕はブリティッシュカウンシルという英語教室に通っていた。これはイギリス政府公認の機関だ。日本でイギリス英語を学べる数少ない英語教室のひとつでもあった。
この教室には留学準備コースがあって、検定試験であるIELTS対策をしてくれるコースもあった。僕はそのコースを取ることにした。
教えてくれた先生はイギリス人女性だった。どうやらIELTSの試験官をした経験があったようで、そんな人が教えてくれるからとても頼もしい。
教科書はIELTSの模擬問題がいくつか収録された洋書だったと思う。たしか紫の表紙だったような、あんまり覚えてないけど。
一人で勉強してたら漫然と問題を解いて終わっただけだろうけど、対策クラスでは実に実践的かつ有意義な活用をしていた。
問題が配られたらまず何をするか。どこを見るか。どう備えるか、内容がいまいち分からないときはどうするか、などなど、とても分かりやすく教えてくれた。
例えばリスニング。IELTSのリスニングは1回きりしか音声が流れない。テープ(当時はカセットテープだった)を再生して音声を流すけど、再生が始まったらもう何があっても止まることはない。
絶対に聞き逃してはいけない。聞き逃すことはすなわち失敗を意味する。僕ら生徒は先生からその覚悟を叩きこまれた。「何も考えずに用紙にメモれ」と。
リスニングの場合、問題は先に読める。試験中は音声でも「今からしばらく、問〇から問〇の設問を読みなさい」と言われる。その短い時間を使い、問題を理解し、これからどんな情報が音声で流れるのかを予想する。例えば「場所」「時間」「人の名前」「値段」「行動」など、聴き取るべき情報は問題文からある程度予想できる。
流れる音声は一回きりだけど、解答となる情報は必ず2回出てくるので、実は1回聴き逃してもまだチャンスはあるのだ。ただ、高得点を取るためには1回目で聞き取れた方が望ましい。2回目はだいたい確認のために聴けるのが望ましい。
例えば会話問題だとこういう感じ。「9時50分」という情報を聞きたいとする。
A「空港行きのバスはありますか?」
B「10分に1本、9時半から出てますよ」
A「10時には着きたいなあ」
B「じゃあ9時50分のバスがいいと思います」
A「それで間に合いますか?」
B「10分あれば大丈夫です。もし不安ならその10分前のバスでも」
A「いやいや、じゃあ10時の10分前のバスにします」
こんな感じで、会話の中にけっこうブラフ情報をまき散らし、意図してひっかけてくる。解答のワードは必ず2回出てくるけど、上の例みたいに表現が違ったりする。
IELTSの問題はイジワルな形式だ。知ってるのと知らないのとではかなり差が出る。
IELTS対策コースではこういうのに引っかからないようにみっちりと対策を教えてくれた。非常に良いコースだったと今でも思ってる。