ここまで留学前の日本での出来事を長々書いてきたけど、ついに渡航までたどり着いた。長かった。
ヨーロッパに行くのはこの時が初めてだった。飛行機にはかなり昔に乗ったことがあったけど、こんなに長距離の飛行機は生まれて初めての体験だった。
イギリスにもちろん知り合いなんていない。滞在先すらわからない。ボストンバッグとリュックだけの思い切った渡英だった。
渡英の少し前に、ロフトでいろいろ旅行グッズを買った。ここで少し大きなリュックも買った。その他、真空パック、携帯工具、パスポート入れ、小物入れ、ウエストポーチなど。
この時に買ったものでまだ現役で使っているものもたくさんある。こうしたグッズたちはこのあとずっと苦楽を共にしてきたので、特に思い入れがある。
それから電機店に行って、携帯用の小さなラジオを買った。このラジオはSony製で車のキーほどの大きさしかなく、本当に海外で動くのか心配だったけど、その後何年も僕の心を癒し続けてくれた。さすがSonyだ。
あと、帽子を買った。
これらのグッズを持って、親しんだ下宿を後にする。家族が空港まで送ってくれた。
家族と知り合い数人が空港で見送ってくれる。「日本が恋しくなったら食べて」と知り合いからコンビニのおにぎりをいくつかもらう。このおにぎりはすぐに食べてしまったけど、イギリスに渡ってから本当に日本食が恋しくなることが無数にあった。
ついに離陸。本当にワクワクした。
クアラルンプールへの飛行機はまだ日本人がたくさんいたのでちょっとした海外旅行気分だった。4時間ぐらいのフライトだったと思うけど、興奮のせいでまったく退屈しなかった。
クアラルンプール上空まで来ると、日本とは全く違う南国の畑が広がっていた。僕はこの風景だけでも大興奮して、ずっと窓の外を眺め続けていた。
クアラルンプール空港に着くと、そこで乗り継ぎ便を半日待った。
やる事がない。買ったラジオを聞いてみると、ちゃんと動作した。空港で聴いたせいか、英語の放送だった。聴いてもほとんどわからなかったけど、ひたすらラジオを聴いて時間をつぶす。
おなかが減ってきたので少し両替し、近くにあったベーカリーでパンを買う。そこのパンはハエがブンブン飛んでいて僕はカルチャーショックを受けた。
(ヨーロッパのパン屋でもハエが飛び回ることは別に珍しくないということを後になって知ったんだけど。)
この時が、日本国外で英語を話した初めての体験だった。僕の英語でパンを買えたことに感激した。
夜も11時になろうかというころ、マンチェスター行きの飛行機のゲートが開く。あたりまえだけど乗客はほとんどイギリス人で、アジア人は僕ぐらいだ。このとき初めて僕は「日本」から離れた気分になって急に孤独感に襲われた。
この後マンチェスターに着くまで別にトラブルはなかったと思う。夜中の便なのでみんな寝ていたけど、僕は一人機内テレビでゲームをやっていた。ほとんど寝なかったと思う。
マンチェスター空港に着いたのはイギリス時間の朝だった。