イギリス留学の夢をかなえるため、僕は4つの大学に願書を送っていた。
ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、エディンバラ大学、そしてインペリアルカレッジ。
どれも有名な大学。よくこんな大胆なことをしたなと今になって思う。
若いときは恐れずに無茶ができる。今の僕は昔の僕に見習うべきかもしれない。
けれど、日本の大学院を卒業した時点でもそれらの大学からの返事は来ていなかった。
不安はあった。全部落ちていたら、もちろん留学はなくなる。でも、どこかには引っかかるんじゃないかと漠然と楽観していた。
なぜかと言えば、僕が応募したのはマスターコースだからだ。
マスターとは、日本でいう修士課程だ。日本の修士課程は2年だけど、イギリスのマスターコースは1年しかない。イギリスの大学は海外からの学生をかなり幅広く受け入れているようで、特にマスターコースは門戸が広いと留学ガイドブックに書かれていた。
その代わり、授業料が高い。授業料が高いからこそ、大学にとって留学希望者は「金づる」なのだ。
僕は本当は博士課程に行きたかった。留学の最終目標は博士号取得と決めていた。
イギリスの博士課程は日本と同じく基本的に3年間で、研究室に属し、そこの先生のもとで研究をする。けれど僕には突然博士課程に属してうまくやっていける自信がなかった。研究分野も変えたいと思っていた。
だから、まず修士課程に行こうと思った。僕は日本ですでに修士号を持っていたので、二度目の修士課程ということになる。金の無駄じゃないか、と思うこともあった。
なぜか当時の僕は「イギリスで修士号を取らないとイギリスの大学の博士課程に進めない」と思い込んでいた。
そういうわけで、4つの大学の修士課程にそれぞれ応募していた。4つとも分野は微妙に違っていたけど、それは、その大学で一番自分の経験を願書でアピールできそうな学科を選んだからだ。
3月末か、4月だったか、ついに返事が来た。
どの大学が最初だったか、覚えていない。
最終的には3つの大学から返事が来た。エディンバラ大学、インペリアルカレッジ、そしてケンブリッジ大学だ。オックスフォード大学からは返事がなかった。
エディンバラ大学は、合格通知を送ってきた。驚いたことに、それと一緒に僕の名前入りの学生証まで送ってきたのだ。この対応に僕は非常に感動して、心が相当揺らいだ。
インペリアルカレッジは、たしか書面だったか、合格通知を送ってきた。
そして驚くことに、ケンブリッジ大学も合格通知をメールで送ってきたのだ。僕は目を疑い、何かの間違いじゃないかと何度も読み直し、ひとり下宿部屋で狂喜乱舞した。
当時僕の部屋にはネットがなかった。受け取ったメールは携帯の小さい画面で読んでいた。当時スマホなんてない。ガラケーですらない。折りたためない、一体型の携帯。その小さい画面を握りしめたのを今でもよく覚えてる。
ちなみに、何度も書いてるけど、留学に入学テストなんかない。どの大学にも、願書と志望動機を書いて送っただけだ。あまりにもあっけない受け入れだった。
もちろん英語テストはかなりのハードルだ。日本人にとってはこれが一番の難関だと思う。あとは、資金力。相当頑張って金を貯めないといけない。
これから留学したいと思ってる人は、どこでも試しに願書を送ってみてほしい。想像してるよりずっと簡単に合格できると思う。
さて、僕は留学を決めた時からずっとケンブリッジ大学に行きたかった。もちろん迷わずケンブリッジ大学を選びたいところだ。
けれど、そこに応募した学科はコンピュータサイエンス学科だった。僕はその分野にはあまり興味がなかった。
しかも、最大の問題が残されていた。僕の英語能力がケンブリッジの要求基準を満たしていなかったのだ。